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第2話 雪の夜

ผู้เขียน: marimo
last update ปรับปรุงล่าสุด: 2026-02-13 21:37:32

黒瀬司と知り合った時、雨宮真澄は23歳だった。

天宮家の令嬢としてではなく、ひとりの新社会人として世に出てから、まだ一年。AMG――天宮グループの名は、彼女の肩書として表に出ることはない。両親を失った幼少期から祖父・龍堂と祖母・静江に育てられた真澄は、守られながらも、どこか自分の居場所を探し続ける癖があった。

その年の冬は雪の日が多かった。

特にこの夜の雪は容赦がなかった。出張帰りの新幹線が急停車し、長時間の缶詰の末に「運転見合わせ」のアナウンスだけを残して完全に止まった。駅構内は次々と閉鎖され、暖房の効いた待合室すら追い出された。人々は白い息を吐きながら外へ流れ出る。キャリーバッグの車輪は雪で役に立たず、スマホの電池も寒さで消耗が早い。タクシー乗り場は機能しておらず、道路はすべて交通がストップしていた。

歩くしかない。

そう腹をくくって外へ出た瞬間、真澄の足は雪の冷気に包まれた。濡れたヒールが白い歩道に突き刺さるたび、身体が小さく揺れる。革靴の底は滑り、つま先はすぐに感覚を失いかけた。彼女は震えながらも前だけを見た。ホテル検索アプリも読み込みが遅く、電波は雪で弱っている。それでも、もう少しだけ歩いた先にホテルがあるはずだった。

道路の列の一番前で、異様な光景が見えた。

大きなトラックがスリップして横を向いていた。車体は斜めに折れ、赤いテールランプが雪に滲んでいる。トラックの運転手は、空転するタイヤを何とかまっすぐに向けようと、ハンドルを切ったりアクセルを踏んだりしていた。エンジンの唸りとタイヤが雪を噛む悲鳴が混ざり、あたりの空気まで焦げつきそうな緊迫感が漂う。

その横の歩道を、真澄は進んでいた。

恐怖で足が止まりそうになりながらも、「ここで止まったら凍えてしまう」と自分に言い聞かせる。雪は降り続け、街灯の黄色い光に照らされながら無数の結晶が舞い落ちる。彼女のコートの肩も、まつ毛も、髪の毛先も、瞬く間に白く染まった。

ふと視線を横へ移すと、対照的な存在がいた。

スリップしているトラックの後ろで、大型トレーラーの若い運転手が、軽妙にタイヤチェーンを掛けている。動作は無駄がなく、手際は見惚れるほど鮮やかだった。チェーンの金属音がリズミカルに鳴る。焦りも苛立ちも見せない。吹雪の中なのに、その男の周囲だけ時間の流れが違うかのようだった。

真澄が見ていると、若い運転手はチェーンを巻き終えた。

そして、まだスリップして頑張っているトラックの横へ行くと、その運転手に声を掛けた。短いやり取りのあと、迷いなく運転席に取って代わる。

真澄は、思わず「そこまでやる?」と心で呟くほど大胆な行動だった。

男はトラックの後方からタイヤチェーンを取り出し、持ち主の運転手が見ている前で、簡単に嵌めた。

再び運転席へ乗り込むと、今度はトラックがゆっくりと動き出した。雪を押しのけるように、慎重に、だが確実に。数メートル先でトラックをまっすぐの態勢にして止めると、男は運転席から降り、トラックの持ち主に向かって、軽い調子で言った。

「さぁ、行こうか!」

その笑顔は冬の闇を割るほど明るかった。

持ち主の運転手が深々と頭を下げる。だが真澄はそれすら視界の背景だった。寒さも、孤独も、恐怖も忘れ、ただその若い、運転手の男の姿に心を奪われていた。

男はふいに歩道へ目を向けた。

真澄の視線に気づいたのだ。濡れたヒール、震える足、途方に暮れた表情。男はトレーラーのドアを開け、運転席から夏用のサンダルを取り出し、彼女の足元へそっと置いた。

「ちょっと大きくて寒いけど、それよりは歩きやすいだろ?そんなんじゃケガするぞ」

言い終える前に、すでにトレーラーへ戻る。

照れも躊躇もない。ただ事実を告げるだけの声だった。それなのに、真澄の胸は熱く震えた。

驚きで、お礼も言えずに突っ立っていた真澄が横へ目を向けると――

雪が白く積もったトレーラーの側面に、黒いゴシック体の社名が刻まれていた。

黒瀬運送

雪が静かに降る夜だった。

だが真澄の人生は、この瞬間から動き始めていた。赤いポストの前で手紙を投函した2年間の彼女は終わった。だがこの夜の彼女は、まだ誰かを愛する未来を信じていた頃の自分だった。

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